通常のWebサイトと、ECサイトを構築するときは、動きがまったく異なります。
ECサイトの場合は、当然にWeb上での”決済”という通常のWebサイトには決してない機能があること、そして主にバックヤードで、人が介在する場面が、圧倒的に多くなるからです。
ECサイトをコーディネイトするときの流れを見てみましょう。
テクニカルな問題に言及する前に、そもそもやらなければならないことがたくさんあります。
ECだから、システムだから、電子的だからと、テクニカルな問題から入ってしまうと、その時点で失敗の足音が聞こえています。
CVRだとか、CRMなんて単語は、まずはこの5つのことを、完全にクリアしてからの話です。
早速、ひとつずつ見て行きましょう。
①商品を決める
そんなことは当たり前だと誰もが思うでしょうが、これ、意外と決まっていません。
正確にいうと、扱う商品のジャンルは決まっていても、何故かその先までは誰も踏み込んでいない、のです。
例えば、「レディースのアパレルのECをやりたい」、場合。
一見商品は決まっているように思えるのですが、実際には、ほとんど何も決まっていないと言えます。
レディースのアパレルなんだから、『帽子から靴下まで、全ての年代の女性のファッションアイテムを取り揃えるんだ!』という目標を持つことは問題ありませんが、それ、最初からはできませんよね?
某ショッピングモールで「レディースファッション」と検索してみてください。
100万件弱のアイテムがヒットします。
100万点の商品を揃えることができるくらいなら、別の事業をした方が良いでしょう。卸売業をした方がきっと儲かります。
ここで重要なのは、掘り下げる、ことです。
ある程度のコンセプトと、最初に扱う商品のカテゴリまでは決めておかなければ、このあとが続きません。この「①」で終わってしまうのです。
②ターゲットを明確にする
これも当たり前の話なのですが、こちらも、あまり決まっていないことの方が多いと言えます。ヒアリング時、質問を重ねて行ったときに行き詰まる確率はおよそ9割。澱みなく回答をいただけたお客様には、私たちの提案は必要ありませんので、そのまま進めれば大丈夫です、の言葉だけ残して私たちは去ります。
ターゲットが明確になっていない理屈は、商品とほぼ同じです。
皆様、もちろんイメージはできているのです。「だいたいこのへん?」という感覚的ターゲットは心に描けているものです。それでも行き詰まってしまうのは、商品だけではなく、社内外のあらゆる関連する事情と現実的な収益モデル、このあたりを結びつけて考えていないからです。
ここでも重要なのは、掘り下げる、ことです。
商品が決まっていれば、誰をターゲットにするべきか、ある程度は定まりますが、このターゲットを決めているときに、商品が変わることも良くあります。
この流れの中では、正否を決めることに主眼を置く必要はありません。より正解に近いかも、と思えるところまでは、①②③は行き来して当然です。してください。
③売上目標を立てる
概算でも、必ず算出しましょう。
まずはざっくりと、細かいところまで計算をする必要はありません。もし、この時点で正確な売上目標が頭の中に描けているのであれば、おそらく天賦の商才をお持ちです、誰の助言も必要ありません。そのまま突き進めば大丈夫です。
算出する場合は、競合調査のついでにやるのが手っ取り早いでしょう。
商品が決まっているのであれば、Google先生が方向性は示してくれますし、何処かのモール内で検索すれば、相場や価格帯は一目瞭然です。
とれるのあれば平均値をとって、それで計算してみてください。
売上=訪問数×購入率×購入単価
ECの基本公式です。
これを12ヶ月分、1年間の売上として算出してみてください。
まずは夢の公式でも構いませんので、数字を入れてみます。入れた後に、その数字が現実的か考えればいいだけです。
④ECツールの候補を上げる
これからECを始めようという方は、まず間違いなく、ここで躓きます。
だから、後回しにしてしまいがちです。しかし、これは早い段階、この時点で、一度考えておく必要があります。
何故ならば、『コスト』に大きく関わる部分だからです。
コスト感なくして、次のステップに進むことはできません。
『EC事業を始める』ためのツール・アプリ・サービスは、Webの世界にはうなるほどあります。
ところがありすぎて、全部やればいいのか、一個だけでいいのか、どれを選べばいいのか、どれから始めればいいのか、良くわかりません。
誰もが知っている1ショッピングモール型であれば、
・楽天、Yahooショッピング、amazon
(最初からユーザーがいるので、ゼロからの集客をしなくて良い)
ASPタイプの
・フューチャーショップ、Makeshop、おちゃのこネット、カラーミーショップ
(ECシステム部分の有料貸し出し、のようなもの。決済部分以外、デザインなどの自由度が非常に高い)
カート機能が充実・特化している、
・ショップサーブ、ショップメーカー、サイトサーブ
(既存のサイト等にカートを後付けできる)
パッケージされているオープンソースを用いて自分でシステムを構築する、
・ECcube
(プログラムが無料なのでシステム利用料もかからず、自由にサイトを作れるシステムのパッケージ)
簡単に並べただけでも、それはもう、上げたらキリがないくらい、様々なサービスがあります。
もちろん、これらに頼らず、完全にゼロから自分で作り上げることもできます。
しかし、これらは一長一短であり、どれを選ぶべきかは、「商品」と「ターゲット」で6割決まります。「商品」と「ターゲット」が決まっていれば、最初に利用すべきサービスも、展開すべき場所も、デバイス対応の範囲も決まっていますので、それに沿って、候補を上げて行くことができます。
そして長期計画(戦略)と、コスト算出で残りの4割が埋まります。
決して、どれを使っても結果的に同じ、訳ではないのです。
よって、ツールを先に決める、ツールありきでECを考える、などということは、有り得ません。
⑤収益モデルの枠組みをつくる
おおよその方向性が見えたところで、コストの算出をしましょう。
・ECサイト構築の初期費用
・月額の運営費(システム利用料、人件費、配送料など)
・月額のプロモーション費用(リスティング、わからなければ、最低でも年20万程度を目安に)
コスト項目は、これくらいで構いません。少し多めに見積もるくらいが良いでしょう。
プロモーション費用をコストに入れ込むのはとても難しい作業になりますが、必ず入れておきましょう。必要ない、という場合もあるにはありますが、往々にして、プロモーションなしで商品が売れることはほとんどありません。
コストの全体像が見えたら、年計算で、③で作った売上目標から引き算してみます。
さて、どんな数値になるでしょうか。
1年間で回収できることは、あまりないかもしれません。
逆に、とてもつもない利益が出ていたら、コストの目算が甘すぎるかもしれません。
シンプルに物事を考えるのであれば、売上の目標に間違い、というものはありません。それに見合ったコストさえかければ、その目標は必ず達成できるからです。ですので、売上目標の数値をいじるよりは、コスト側の数値で調整するのがベストです。それで利益が出るかどうか、だけを見て行くと、そのビジネスの枠組みがわかります。
あまりにも夢のない収益モデルをつくる必要はありませんが、ここでは、まず現実を認識することが大切です。
数値に違和感があったら、①②③④⑤を繰り返してみます。
まずはここまでを、ECを始める前に行います。行わなければなりません。
やると言ったらやるんだ!走り始めてから考えればいいんだ!始めることが何よりも大事だ!というのも素敵なお話ではあるのですが、どちらにしろ、上記の①~⑤までは、何処かで必ずやらなければなりません。だったら、最初にやっておくのが得策です。
数値に気弱になる必要はありません。予想を超えてくる現実なんて、それこそ、想像よりも遥かに多いのも事実です。
次回のECコラムでは、いよいよECサイトの構築に入って行きます。
技術的で専門的なお話も出てきますが、基本さえ抑えていれば、制作会社さんとも対等に会話できます。
次回、ECを考えるコラム【その弐】:『ECサイトを構築する”時に”やるべき5つのこと』
お楽しみに!